戦前の名古屋の歴史をひも解くと、至るところに顔を出している山田才吉ですが、客観的に見ればそこまで知名度が高いわけではありません。そのため才吉の親族や一部郷土歴史家を除いて、一般的に才吉の情報はそこまで知られていません。
数は限られますが、一部創作物で山田才吉の名前が出てくる本を紹介します。
まず才吉の生涯を小説という形でまとめてくれている本が、藤澤茂弘さんによる著書『不屈の男 名古屋財界の怪物 山田才吉』です。同書をまとめるに際して藤澤さんは、才吉の三女・幾久子が存命中に、才吉についての話を聞きに訪れており、小説内にはそこで聞いた話も散りばめられています。
山田才吉が存命中のものだと、耽綺社から出された『南方の秘宝』という小説があります。同作では山田才吉、聚楽園大仏および聚楽園旅館の名前が、冒頭に登場します。耽綺社というのは、小酒井不木を中心に国枝史郎、長谷川伸、土師清二、江戸川乱歩という5人の作家により1927年にできた同人グループです。翌年には平山蘆江が加わり6人になりました。『南方の秘宝』は戦前に映画化もされています。
インド映画にも聚楽園の大仏は登場します。1993年にインドで公開(日本公開は1999年)された「ボンベイ to ナゴヤ」はタイトル通り名古屋市内を中心にロケが行われ、劇中でヒロインが聚楽園大仏の前で手を合わせるシーンが出てきます。
サッポロ飲料が販売していた「○福茶(まるふくちゃ)」のテレビCMでは、「チェッチェッコリ」の曲に合わせて、聚楽園の大仏が風呂敷に包まれます。
2010年に名古屋開府400年記念として披露された西川流名古屋をどりの新作舞踊劇『マダム・ゑれくとりっく』でも、山田才吉が登場しています。演じられたのが西川流三世家元・西川右近さんです。同作は日本初の女優・川上定奴を主役にした物語。名古屋開府400年ゼネラルプロデューサーを務めた作家の荒俣宏さんが原作を執筆し、脚本・演出・作舞を才吉役も担当した西川右近さんが務めました。
川上貞奴の恋人で、当時名古屋で電燈を広めようとした後に電力王と呼ばれた福澤桃介。一方で、名古屋で最初にガス事業を手掛けた才吉は、名古屋瓦斯(東邦ガスの前身)で実質の経営を担う常務取締役でした。その福沢らとの絡みで才吉が登場します。公演時には西川さんよりご招待をいただき、私たちも見に行きました。
2018年末に公開予定の映画『大仏廻国』にも、写真越しの姿ですが山田才吉が登場予定です。